「需要」から始まり、「誰かのため」へ。
東京で抱えた将来への不安
東京でグラフィックデザイナーとして働いていた2010年。
仕事は好きで、充実した東京ライフを送っていたんですが、反面、この先ずっと続けていく未来を思い描いたとき、どこか不安を感じ、悶々とした日々を過ごしていました。
そんな中、少しずつ「農業をやりたい!」という思いが湧き上がってきます。
※なぜ農業だったのか? デザイナーとしてどんな葛藤があったのか? については、こちらの記事をご覧ください。
もちろん、農業の“の”の字も知らないど素人。
だからこそ、「いろんな農家を見た方がいい」と考え、2010年から2011年にかけて、仕事の合間を縫いながら、千葉、神奈川、茨城、滋賀、高知など、さまざまな地域の農家を訪ね歩きました。
アポを取っては即行動。
1日体験をさせてもらいながら、それぞれの営み方や価値観に触れる、いわば“農業行脚”の日々でした。
「需要があるなら、無農薬でやろう!」
その中で、無農薬でもしっかり野菜を育て、事業として成立させている農家さんたちに出会う機会に恵まれます。
また、当時見た調査では、多くの消費者が「無農薬・有機農産物」に関心を寄せていることも知りました。
「どうせ挑戦するなら、求められていることをやりたい!」
そんなシンプルな理由から、自分の中で「無農薬でやろう!」という気持ちが固まっていったんです。
東京から地元・神戸へ戻り、1年間の有機農業研修を経て就農。
栽培する作物も、「無農薬でも育てられて、きちんと収益につながるもの」を軸に探し、その中でパクチーやにんじんと出会いました。
今振り返れば、最初のきっかけは理想や使命感というより、極めて経営的な判断だったのかもしれません。
続ける中で見えてきた、本当の理由
でも、長く農業を続けていると、ある時ふと思ったんです。
(農業って孤独な作業が多いので、自問自答する時間がものすごく長い! これ、農家あるあるやと思います。)
「自分が有機農業を続けられているのは、需要があるからだけじゃないな」と。
もっと深いところに、自分を動かしている何かがある。
そう感じるようになり、それを探るように、自問自答を繰り返しながら作物や土壌に向き合う毎日が続きました。
そして、その答えに気づかせてくれた出来事があったのです。
息子のひと言が教えてくれたこと
にんじん栽培を始めて4年ほど経った頃、神戸市の小学校給食へ出荷する機会をいただくようになりました。
経営的な効率だけを考えれば、正直、迷いがなかったわけではありません。
でも、不思議と「続けたい!」と思える自分がいました。

学校給食出荷用にサイズ分け、梱包されたにんじん
学校給食のにんじんは、市内のどこの小学校へ届くのかは生産者にはわかりませんが、息子の通う小学校にも届けられている可能性は多分にあります。
ある日、家に帰ると、小学生だった息子がこう言いました。
「今日の給食のにんじん、めっちゃウマかったわ〜!絶対に父ちゃんのやつやわ〜!」
その瞬間、胸がいっぱいになりました。
「ああ、自分のやってる仕事は、成長ざかりの子どもたちの身体をつくる一助になれているんだ」
「未来を担う子どもたちに、確かな影響を与えられているんだ」
そう思えたとき、この仕事の価値を心の底から実感しました。
そして、
「自分が有機農業を選び続けている理由は、ココにある!」
とはっきり気づかされたのです。

我が子は、そのまままるかじり!
子どもたちへ、「安心して食べられる」を届けたい
敬愛するやなせたかしさんの言葉があります。
「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」
ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれません。
でも、私にとっては、その問いに自分なりの答えが見えた瞬間でもありました。
有機農業は、決して楽な道ではありません。
土壌のこと、自然環境のこと、作物生理のこと。
考えることは山ほどあるし、手間もコストもかかります。
もちろん、泥だらけになりながらの手作業もたくさんあります。
それでも、「安心して食べられる」を待ってくれている人がいると思うと、踏ん張れます!!
敬愛するやなせたかしさんが描いたアンパンマンは、自分の顔をちぎってでも、お腹を空かせた人を助けに行きます。
もちろん、私はアンパンマンにはなれません(笑)。
でも、「困っている人や、誰かの役に立ちたい」という、その根っこの想いには、どこか重なるものを感じています。
しんどい日には、「よし、今日もちょっとだけアンパンマンになろう。」(笑)。なんて、自分に言い聞かせながら畑に立つこともあります。

「自分のため」だけでなく「誰かのために行動することを教えてくれるアンパンマンは偉大です
これからも、どこかの食卓で。
そして、どこかの学校給食で。
「今日のにんじん、めっちゃウマかった!」
そんな声が、ひとつでも増えるように。
それが、私が有機農業を選び続ける理由です。
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